台湾有事は近づいてきている(改題しました)

 7月8日、安倍晋三内閣総理大臣が凶弾で倒れ、亡くなりました。哀悼の意を示すと共に謹んでご冥福をお祈り申し上げます。

 その上で責任をもって予言しますが、安倍晋三は日本史及び世界史に残る偉人として語り継がれるでしょう。彼の功績はあまりに多く、我々日本国民が思っている以上に世界に影響を与えていたのです。それは彼の不幸の知らせが世界の駆け巡た際に各国で弔問が相次いだことが明瞭に物語っております。米国に至っては上院で安倍氏賞賛の決議案まで上がるほどです。前駐日米大使のハガティ上院議員によって提案されたこの決議案には超党派の議員68名が共同提出者として名を連ねており、近いうちに採択される見通しです。

決議案は「安倍氏は一流の政治家であり、民主主義的な価値観の不断の擁護者だった」と指摘。日米両国の外交、軍事、経済的な協力を深め日米同盟を前進させたと称賛した。(出典:米上院、安倍氏称賛の決議案採択へ 前駐日大使提出,産経ニュース電子版,2022.7.15.,https://www.sankei.com/article/20220715-BGVXJSSJQVPI5GQN2TQ7FKYKE4/

 ここまでされたら国葬で送らねば逆に失礼というものです。例によって共産とれいわが反対していますが、自分のイデオロギーを優先し過ぎです。国によっては安倍さんの為に喪に服していたという話もあり、それに対して喪にさえ服さぬ我が国の冷淡さよ。これも後世で語られるのは必至でしょう。真に恥ずかしいことです。

 犯人にどんな意図があるにせよ、反安倍界隈がどう思うにせよ、安倍晋三という存在を歴史から抹消することは不可能であると知りなさい。現在米国が掲げている「自由で開かれたインド太平洋」や日米豪印で開かれる「クアッド」は、彼の「価値観外交」と「セキュリティダイアモンド構想」を下地にしております。今の岸田政権も彼が作った花道の上にある事を念頭においてください。

 安倍晋三の残した言葉

 安倍さんが生前言っていたことがあります。

「台湾有事は日本有事」

 戦後日本の政治家としてこうした発言は稀有であり、識者の間でもここまで言うことは稀でした。理由はシンプルに中国の反発が怖いからで、日本人特有の事なかれ精神が影響していたのでしょう。人によっては中国軍の能力を指して「侵攻はない」と言い切っている人もいますが、ロシアのウクライナ侵攻のようにないと思っていた事が起こるのが現実世界です。また例によって「ロシアの軍事侵攻に対する国際的批判で台湾侵攻が遠のいた」とする言説も広まっていますが、中国指導部に直接聞いたわけでない以上これも三者の印象の域を越えません。

 プーチンの成功から読む台湾危機

 ではここからウクライナ戦争の事例を参考に台湾危機の可能性を詳しく考察していきましょう。まずはプーチンの成功から見てみるとします。「いやプーチンに成功はないだろ」と思われるかもしれませんが、まず戦争を起こせたことが成功です。前記事で指摘した通りプーチンは戦争を欲しており、その機会を虎視眈々と狙っていました。NATOの弱体化と対ロシア宥和、米軍のアフガン撤退。できるって思ったからこそ彼は実行へ移したのです。

 ウクライナ戦争の背景として「核抑止が崩壊した」とする主張がありますが、これは二つの意味で間違いです。一つはウクライナに核抑止力が存在しなかった事。独立当時はソ連製の核兵器保有していましたが、技術的問題と国際的圧力によって放棄してします。この時ブダペスト覚書を米英露で署名していますが、お分かりの通り反故にされました。そもそも覚書には法的拘束力がなく、核の拡大抑止を保証する物ではなかったのです。

 二つは侵略に先立ってプーチンが「邪魔するものは歴史上で類を見ないほど大きな結果に直面するだろう」と主張したことが功を奏したことです。これによって欧米各国はロシアの核報復を恐れて介入を避け、ウクライナが求める飛行禁止区域さえ決めることができなかったのです。ゆえにプーチンは安心してウクライナだけを相手に思う存分戦争できるようになりました。これは悪い意味で「核抑止」が機能している証拠です。

 こうした事例は中国にとっては追い風になります。そもそも介入したら核戦争という恫喝は17年も前に人民解放軍の朱成虎少将が「個人的見解」でぶっ放しており、世間を騒がせました。その実効性が証明されたわけですから、習近平にとってはワクワクが止まらないでしょう。

 その象徴を三つご紹介しましょう。まず中国駐大阪総領事館の「戦狼」で名高い薛剑総領事がウクライナ戦争勃発当日、Twitterにて「弱い人は絶対に強い人に喧嘩を売る様な愚かをしては行けない」とツイートしました。軍事強国となった自国を笠に着た明確な台湾への恫喝です。同時に「火中の栗を拾うな」とも付け加えており、日本へも恫喝していることがわかります。

中国駐大阪総領事の戦狼ツイート

 これは決して彼個人の跳ねっ返りではありません。3月5日から開かれた全国人民代表大会では王毅外相が日本に「三つの忠告」を出して牽制ないし恫喝を行っております。

王毅外相は記者会見で、共同通信の記者から日中関係について質問を受けると、2022年が国交正常化から50年の節目にあたることに言及したうえで、「日中関係は依然として分岐と挑戦に直面している」との認識を示した。

そのうえで日本に対し「3つの忠告」と銘打ち、▽両国関係の方向について初心を忘れないこと▽台湾問題や歴史問題で両国関係に大きな衝撃を与えないこと、そして▽時代の潮流に沿って行動することなどを求めた。(出典:中国・王毅外相が日本に対して「3つの忠告」。「火中の栗を拾いに行くな」と日米同盟も牽制,ハフィントンポスト日本語版,2022.3.7.,https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_6225c512e4b042f866f06623

 意訳すると「日本は永久に敗戦国だ」「台湾を見捨てろ」「新たな超大国(中国)の属国になれ」です。国際関係の民主化などと言っていますが、その民主化は我々の考える民主主義でないことは香港を見るからに明らかです。中国の民主主義は共産党支配であり、究極的には中国皇帝習近平圧政下の華夷秩序です。

 またある中国学者が台湾侵攻に先立って「ロシアがお手本を示した」という、よりあからさまな主張までしています。

www.epochtimes.jp こうした点からもロシアのウクライナ侵攻は中国にとって寝耳に水でない予期された状況であることがうかがえます。そして核を使った第三国の介入阻止に確かな可能性を見出しているのです。

 プーチンの失敗から読む台湾の危機

 ここからはプーチンの失敗から台湾危機を考察していきます。失敗というと危機が遠のくように感じますがむしろ逆です。失敗こそいかに成功させるための原資になるからです。

 火力不足で短期決着失敗

 まずプーチンが失敗したと言われる主因は短期による斬首作戦に失敗したことです。その理由はウクライナの航空施設や軍施設を完全に破壊できなかったことや、自軍の兵站を軽視していたことが挙げられます。大きな国力差があることからちょっと攻撃を加えるだけでもアフガニスタンのガニ政権のようにゼレンスキー政権も崩壊するだろうと高をくくっていたのです(その強気な思考は中国にも伝播しており前述の薛剑総領事のツイートと王毅外相の発言に表れました)。しかしウクライナの抵抗は激しく、首都攻略を一旦断念せざるを得ませんでした。

 これは裏手を返せば自国の兵站を確保して標的の航空施設や軍施設を破壊しつくせば可能性が見えてくることになります。米議会の超党派諮問機関「米中経済安全保障調査委員会」は昨年11月に中国軍が台湾侵攻の初期能力を確保した可能性を指摘した上、核戦力も最小限抑止から脱却していることを報告しました。

米国に軍事介入の能力や政治的な意思がないと中国指導層が確信すれば、米国の「抑止策は破綻する」と警告。台湾も過去数十年の軍事への過小投資のつけで重大な課題に直面しているとし、封鎖に耐えられる重要物資の備蓄が不足していると分析した。台湾関係法上の義務を果たすため軍事的抑止力の信頼性を強化する緊急措置も提言した。 報告書は一方、中国の核戦力に関する項を新設。「1960年代に最初に核兵器保有して以来、核戦力の拡大・近代化・多様化のため最大級の取り組みを実行している」と強調した。(出典:中国、台湾侵攻能力を確保 「最小限核抑止」から離脱 米報告書,産経ニュース電子版,2021.11.18.,https://www.sankei.com/article/20211118-WRTDR7FKDFMS5FAWDSQK3HLALU/

 先述の強気で高圧的な態度は決して張子の虎じゃなくなってきているということです。米露がINF(中距離核戦力全廃)条約を結んでいる間、中国はせっせと中距離弾道ミサイルを量産し続けざっと二千発は越えます。よって侵攻決断時に大規模なミサイル攻撃をして台湾の即応力を奪い、制空権を確保して台北に斬首作戦ができると彼らは自信を持ち始めているのです。先の「ロシアがお手本」の学者も短期決戦を主張しており、口先だけの心理戦ではないことが伺えます。

 標的の孤立化に失敗

 次のプーチンの失敗……これが本当に根本的な失敗なのですが「ウクライナを国際的孤立に追いやれなかった」ことです。21世紀の国際社会において侵略戦争は禁止されていますが、それを守らせる強制力は集団安全保障以外に存在しません。要は侵略された国に皆が味方して侵略国を懲らしめるってわけですが、侵略されている国が孤立していた場合、誰も助けてくれないことになります。よくロシア擁護派が「何でアメリカはイラクを攻撃してお咎めなしなんだ」と言いますが、それはサッダーム・フセインが国際的に孤立していたからです。

 ロシアはウクライナについて「ドネツク・ルガンスクでロシア系住民にジェノサイドを行っている」と主張していますが、第三国がこれを確認したことはなく、国連で議題に上がったこともありません。同地域にロシア軍が入っているのは明瞭であり、それでも場を収めるように欧米はミンスク合意を推していたのです。しかし結局、プーチンはこれを破りドーンと全面戦争を始めたのでウクライナ孤立策はおじゃんになりました。ゼレンスキーさんは世界に反戦反ロシアデモを呼びかけ、各国議場で演説をして支持を集めることに成功しました。その類まれな外交手腕には舌を巻きます。

 懲りないロシアはゼレンスキー政権を「ネオナチ政権」と呼び、原発を攻撃して「ウクライナは核開発をしている」と自己正当化し、マリウポリ総攻撃時には「生物兵器を研究している」と放言を垂れました。しかし、信じるのはせいぜいロシア国民とDS陰謀論者だけ。終いにはプーチンヒットラーをもじって「プトラ―」と呼ばれてしまう始末。やること成す事すべてが仇となったロシアが頼れるのは今や6375発の核爆弾だけです。

 しかし台湾の場合は逆に中国が圧倒的に有利な状況です。1971年に採択されたアルバニア決議で中華民国(台湾)は常任理事国の座を失い、中華人民共和国(中国)が常任理事国となりました。この時決議文に「蒋介石の代表を国連から追放する」文言が含まれてたことに反発し、中華民国は国連を脱退しました。

 これ以降、中国は国交を結ぶ条件として台湾との断交を要求し、日本や米国を始め多くの国々がそれに従い今や国交がある国はわずかに15か国。つい昨年12月にもニカラグアが台湾と断交し中国と国交を結びました。北京の陰湿な外交戦略で台湾は国際社会で孤立に追いやられたのです。

 だから仮に中国が台湾に攻め入ってもほとんどの国は台湾を国と認識していないので、中国側の「中台戦争は国内問題だ」という主張を信じて黙認する可能性が高いのです。唯一それを押しとどめているのは台湾関係法を施行しているアメリカで、武器支援をしたり侵略の危機には米空母を出張らせて抑止したりしています。

 この時期から中国は軍拡と海洋進出に力を入れるようになりますが、その第一の目的が台湾攻略を実現させるためなのですね。平和統一なるものも模索していますが、それはドイツのような東が西に合体する統一ではないことは香港を見るに明らかでしょう。李登輝さんが台湾を民主化してなかったら、もっと早く飲み込まれていた可能性が高いです。

 ヤバすぎる中国の反台湾政策

 先ほど「北京の陰湿な外交戦略」と書きましたが、これは決して誹謗中傷ではありません。客観的な事実です。

 二年前の一月、チェコの政治家ヤロスラフ・クベラ前上院議長が心臓発作により急死しました。同氏は2月に台湾訪問を予定しており、中国大使館と中国から圧力を受けたチェコ大統領府から脅迫状を受けていたと配偶者が告白しています。

ベラ・クベラ(Vera Kubera)夫人によると、台湾訪問を予定していたクベラ前議長に対して、中国大使館が脅迫状を送りつけ、家族を危険に晒したという。「夫が亡くなった後、遺品整理を始めた。書類の中に公式手紙が2通入っていた。 1通は中国大使館から、もう1通は(チェコ)大統領府から。どちらも恐ろしい内容で、2通の脅迫状をどうすればいいのかわからなかった」
ベラ夫人は夫の死後に手紙を見つけ、娘のバンドラ・ビンソバ(Vendula Vinšov)さんと2人で恐怖におびえたという。また、2通の手紙は、圧力が夫を殺したという十分な証拠になると強調した。(出典:急逝したチェコ前議長 夫人「中国大使館の脅迫状に殺された」,大紀元電子版,2020.4.29.,https://www.epochtimes.jp/2020/04/55784.html

 かつてチェコ(当時チェコスロバキア)がナチスドイツによって国を喪っていた時に中華民国(台湾)に亡命政府を承認してもらった過去があります。その後共産党政権時代に断交するも、民主化以降は非公式での関係を築いていました。中国はチェコの外交に内政干渉し台湾との交流を妨害しようと圧力をかけたのです。

 同じ2020年10月には太平洋の島国フィジーで台湾の建国記念式典の最中に中国大使館職員が立ち入り、台湾駐在所職員に暴力を振るう事件が発生しました。

式典は、首都スバにあるグランドパシフィックホテルで開かれた。このイベントに中国大使館職員2人が立ち入り、許可なく会場などを撮影した。台湾駐在所職員は声をかけて退出を求めたが、これを拒否し、職員を殴った。暴力を振るわれた職員は頭部を負傷し、病院に搬送されたという。
フィジーの警察が現場に到着すると、中国大使館の職員は外交特権を理由に捜査を拒否した。しかも、「台湾の職員から暴力を振るわれた」と逆上したという。(出典:フィジーでの台湾式典で中国大使館職員が暴行 台湾職員は病院搬送,大紀元電子版,2020.10.19.,https://www.epochtimes.jp/2020/10/63597.html#.X4-oHinbAhs.hatena

 いくら気に入らなくても第三国で乱暴狼藉をはたらくのはいくら何でもやり過ぎです。それでいて逆に暴力を振るわれたと逆切れするなど、まともな精神状態じゃありません。

 さらに2021年には20年から世間を騒がせていた武漢熱のワクチンを台湾が購入するのを妨害する事件が起こりました。

蔡氏は与党・民進党の会合で、アストラゼネカおよびモデルナとの契約は「円滑に」進んだとする一方で「ビオンテックについては、同社の独工場から調達する契約が完了寸前だったが、中国が介入したため合意できていない」と説明した。
(中略)
中国の上海復星医薬(上海フォサン・ファーマシューティカル)は中国本土・香港・マカオ・台湾でワクチンを独占的に販売する契約をビオンテックと結んでいる。先週末にビオンテックのワクチンを台湾向けに供給する用意があると表明した。(出典:台湾と独ビオンテックのワクチン契約、中国が妨害=蔡総統,ロイター通信日本語版,2021.5.26.,https://jp.reuters.com/article/health-coronavirus-taiwan-china-idJPKCN2D70ZD

 もはや陰湿以外の何物でもありません。台湾には日本からもワクチンを送りましたが、それにも中国は強烈に反発しています。「お前は俺のものだから他の者と付き合ってはならないし、受け取ってもならない」と言いたいのでしょう。まるでパートナーを束縛するメンヘラ男です。

 なおこれは余談ですが、此度亡くなられた安倍さんは今月末に李登輝氏のお墓参りの為に訪台を計画していました。当然中国は猛反発しており「日本は歴史的な罪を負う」ともはや脅迫状です。これが何かしらの因果関係をもたらしたかは現時点ではわかりません。

 プーチンの願望が映す台湾危機

 最後にプーチンのまだ成功とも失敗とも決まっていない点として戦績があります。現状ウクライナをすぐに征服できない状況を見ると失敗と映りますが、少しでも支配領土を広げていることを戦績と言うなら成功とも言えます。実際、2014年のクリミア侵略では高い支持率を獲得しており、18年の大統領選挙で再選を決めた他、事実上の任期延長を図った20年の改憲にも成功しております。今後の戦況次第で変わりますが、彼が戦績を諦めることはないでしょう。むしろそれを求め続けることが政権存続の命綱になりつつあることを前記事の後半で解説しました。

 一方の習近平ですがこちらはより切迫した状況で戦績を必要としています。2012年11月に中国国家主席の地位を握った彼は腐敗撲滅で政敵を葬った後、権力集中に力を注いできました。2018年には憲法を改正して国家主席の任期制限を撤廃し、毛沢東思想に並んで習近平思想なるものを党規約に加えて、個人崇拝への野望も垣間見せていました。

 それで今年の10月の党大会がいよいよ三期目に踏み出す転換点になるのですが、それに赤信号が点っているのだそうです。というのも彼の時代から中国経済は失速をし始め、鳴き物入りの一帯一路も振るわず、米国との貿易戦争でさらに打撃を食らいます。国際社会でも香港やウイグル人権問題に批判を集め、武漢熱での恣意的なマスク・ワクチン外交で顰蹙をかい、後先考えぬ戦狼外交によって欧米での評価を大いに落としてしまいました。挙句の果ては世界に先駆けて「終息」させたはずの武漢熱が上海で再拡大し、強引な都市封鎖で人民の生活を困窮させるなど、国内の評価もがた落ちとなっています。

 経済もダメ、外交もダメ、政治もダメ。こうなったら習近平が唯一頼れるのは台湾問題に関する戦績だけです。以前このブログでご紹介した台湾の東沙諸島を標的とした軍事作戦。最低限これだけでも党大会までに実行し、確実に成功させねばならない状況です。故に台湾防空識別圏へのひっきりなしの挑発や、ロシアと組んでの威圧的な日本周回作戦を繰り返しているのです。

 

台湾有事は日本有事、汝平和を欲さば、戦への備えをせよ!

 

(2022/8/15 改題、一部中見出し変更)