岸田さんの大逆転

 こんにちは、年が明けて一層寒くなってくる中、皆さんいかがお過ごしでしょうか。この頃暗雲立ち込める世界情勢ですが、少しでも人々に希望の光が見えるよう祈っております。

 アジア情勢に日米関係など目まぐるしく変化しています。1月7日、日本の林芳正外相と岸信夫防衛相は米国のブリンケン国務長官とオースティン国防長官と外務・防衛担当閣僚会合(2プラス2)を開催し共同声明を発表しました。

4閣僚は声明で、中国の新疆ウイグル自治区と香港における人権問題について「深刻な」懸念を示したほか、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調した。(出典:日米2プラス2共同声明、中国の動きに懸念表明 台湾海峡の安定強調,ロイター通信電子版,2022.1.7.,

https://jp.reuters.com/article/idJPL4N2TN0FM

 その内容は昨年3月に開かれた2プラス2同様、中国を名指しした「深刻な懸念」表明となっており、南西諸島と台湾海峡の平和と安定のためにより踏み込んだ防衛協力が盛り込まれています。

 なら日米同盟は盤石だ、バンザイと官邸をはじめ日本のメディアの大勢は思っておりましたが、実際はそうではないようです。

岸田さんが訪米できないたった一つの理由

 その象徴として岸田首相が政権発足以降「早期の訪米」に意欲を示しながらなかなか実現しないことが挙げられます。公式には武漢南アフリカ変異株(オミクロン株)を理由に挙げていますが、信じる人はいません。なんせ昨年4月に菅前首相が訪米してバイデン大統領と間隔を十分に開けた上で首脳会談していますからね。あの時も米国では武漢熱の変異株の感染拡大が問題になっていましたから、今とどう違うんだって疑問がわいてしまいます。

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昨年は武漢熱の最中でも日米会談が実現した(写真は外務省HPより)

 もうすでに保守系メディアやブログでは取り上げられていますが、理由は米国が岸田政権に不信を抱いているからです。焦点はズバリ「対中政策」。いや、バイデン政権の「対中政策」もどうなんだよと思わなくもないですが、そんな彼らでも岸田さんの対中姿勢は怪しく見えるのです。

不信の米国、政局の岸田

 まず米国が岸田政権に疑念を抱く最大の要因は林芳正外相の起用です。日中友好議連の会長であった彼は中国との深い繋がりがあり、人事が発表された当時も日本の保守層から懸念の声が上がっていました。

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林芳正外相 外務省HPより

 彼を起用した岸田首相の胸の内と米国の反応について、参議院議員青山繁晴さんは11日の「ぼくらの国会」で以下のように話しております。

 でもっと具体的に言うと、これは誠に申し訳ないけど、林芳正日中友好議連会長を外務大臣にしたことについてアメリカが納得してないんですよ。それで僕はですね、例えば総理経験者と話していても「あの人事は間違いだ」と言う人はいてですね。で、一応岸田総理とも議論はしますから、これはもう言ってしまってますけど、やっぱり岸田総理は人と議論することもやぶさかでないのは本当ですよ。

 したがって日中友好議連の会長を任命したに等しいけど、それは会長は止めてもらっているし、中国と非常に林さん親しいのは事実だけど、アメリカの人脈もあるっということを少なくとも岸田総理は期待して、で岸田総理の本音は……これは僕は勝手に言いますけど、明らかに米中の間の仲介役になりたいんです。

(中略:米中が激突している話。中庸を目指す岸田総理がその仲介を目指すが、それは間違いだという青山さんの主張)

 したがって林芳正さんはアメリカにも中国にも人脈があるという考えで、外務大臣に起用した。同時に岸田さんは意外なほどに鋭利な計算をして、派閥の力学で、要するに安倍さんの派閥……96人いる、それを「押し込みたい」と。それも押し込んでいるように見えないように押し込みたい。でこうする(強く押しのける動き)じゃなくて、岸田流でこう(囲い込むような動き)したいわけです。それで安倍さんにもこう(囲い込むような動き)なっている。

(中略:自民党の重鎮の間で安倍嫌いが萬栄している話、次期総裁を巡って世耕幹事長と二階家が争う話、孤立を防ぐため安倍さんが岸田政権の人事に文句を言えなくなっている背景を解説)

今のところ成功している形になっているから、岸田さんとしては林大臣の起用で「良かった」と、国内の政局上まず「良かった」

 それから林芳正さんは非常に慎重な人なんで、話しぶりが慎重だと。ただし「中国に行きたい」っていう趣旨のことを言ったって……これは大事件でこれは大きなミスで……そのミスは未だに回復できていないんですけど、全体にはその後慎重に話しているから、岸田さんとしてはこれである程度「安定」しているという認識なんですよ。

 これが違うんです!アメリカちっともそう思ってないですね。(出典:【ぼくらの国会・第264回】ニュースの尻尾「岸田総理、バイデン大統領はなぜ会わないか」,青山繁晴チャンネル「ぼくらの国会」,2022.1.11.,8:13-13:06)

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 件の林大臣ですが英語が非常に堪能だそうで、「まず会って話を聞く」という外交スタイルなんだとか。

林氏が文科相だった時代、国際会議に出席した。外務省関係者は当時、「文科省じゃあ、英語資料の翻訳などが大変だろう」とうわさし合った。ところが、文科省の担当者はけろりとして「ああ、大臣からは英語の資料はそのまま渡してくれれば良いし、自分たちの資料も英語に訳す必要はないと言われてますから」と答えたという。今年11月17日にあった訪日中のキャサリンタイ米国通商代表との会談では、林氏はやはり、最初から最後まで英語で通した。事務方は当時、事前に日本語の説明資料とトーキングポイントしか用意していなかった。この会談後、林氏の会談には、少なくとも特殊な専門用語については英語の資料をつけるよう改めて周知徹底したという。

林氏を古くから知る関係者は「彼の頭は(政界入りする前に働いていた)商社マンそのものだよ」と語る。「彼はどうやったら利益を上げられるか、いつも考えている。そのためには、まず会って話を聞くというスタイル。別に中国や韓国におもねっているわけじゃあないんだけどね」と語る。(出典:「まず会って話を聞く」 知米派・林芳正外相の外交スタイルとは,Forbes Japan,2021.12.15.,

https://forbesjapan.com/articles/detail/44870

 そんなだから中国からの訪中の誘いもまさか『米中どちらにつくか?』の試金石とも知らずに「とりあえず行って、話聞いてみよ~」ってな軽い気分で「訪中の要請があった」と発言したのでしょう。これは日本の「古い親中」によく見られることですが、自分の価値観を相手国に当て込めて、そのように動く独善的な一例です。本人としてはバランスをとっているつもりなのでしょうが、表面的には背骨がないように見えるために自己主張の強い覇権主義権威主義へ意図せずおもねる形になってしまうのです。米国が圧倒的覇権を確保している内はまだ許されますが、米国が世界から引き、中国が台頭しようとしている今の時世では「俺は米国と縁を切って中国側に付くぜ!」という誤ったメッセージを出す最悪の外交スタイルです。それを命実に示すサンプルとなるのがすぐ隣にいます。韓国です。

 かの国は朴槿恵前政権の時代から「米中二股外交」を実施していました。いいえ、正確に申せば中国に媚びて米国を裏切り続けていました。

2015年 リッパート駐韓大使襲撃事件
(同年) アジアインフラ投資銀行参加
2016年 南シナ海判決に対し米国と歩調を合わせず
2017年 一帯一路サミット参加
(同年) 環境影響評価を理由にTHAAD配備を遅延
(同年) THAAD追加配備拒否を含む「3NO」を宣言
(同年) 米韓国防相の共同声明を一部否認した中韓合意文を発表
(同年) 米韓首脳会談の翌日、共同発表文の一部を否認・削除
2018年 平昌五輪に乗じて南北親善を演出
(同年) 圧力姿勢の米国を出し抜いて南北首脳会談

hatoyabu01.hatenablog.com

 そして挙句の果ては軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄を言い出し、日米との関係を最悪な状況へ陥れます。しかも繰り返し懸念を表明した米国に対して駐韓大使を呼び出して「自制」を要求……つまり「黙れ!」と言った他、大使のハリー・ハリス氏が日系人であることをあげて差別するなど、いよいよ反日反米の自制を失ったかのような所業に出ました。その後は武漢熱の萬栄によりうやむやになってしまいましたが、ハリー大使の後継が未だに候補さえ決められていない状況が今も続いています。もっとも、2019年から空席だった駐日全権大使が、ついこの間就任しましたから、単に指名作業が遅れているだけでしょうけどね。
 そんな韓国にとってバイデン政権のアフガニスタン撤退は当然衝撃的に映りました。最近では青瓦台の中国寄りを正すべきという声が出てくるくらいです。

 韓国でさえこうなのに、岸田政権の能天気ぶりは正直びっくりしました。外交と政局をごちゃまぜにして、政局がうまくいっているから「良かった」だなんて。日本の宰相の自覚があるのでしょうか?そんなに宏池会の領袖のお立場が大事ですか?

振るわぬ外交ボイコットの波、AIIBの悪夢

 今回年明けての投稿ですが、私は一つ反省しなければならないことがあります。昨年12月にバイデン政権が宣言した「外交的ボイコット」に対する認識です。この件について私は見かけに反してマイルドな行動と言い、やるなら直前の方でなければ「事前キャンセル」の如く矮小化されると主張しました。

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その考え自体には変わりはありません。実際、1月に入って共和党上院議員が「バイデン政権は中国に甘い」と言った批判を強めています。案の定と言ったところでしょう。
 しかもバイデン政権の「外交的ボイコット」に追従する国があまりに少なく、人権問題を理由としたボイコットを表明した国は米国の他にはオーストラリア、英国、カナダ、リトアニアの四か国だけでした(ドイツは外相らが個人的判断で出席を否定)。次期五輪開催国であるフランスはボイコットは「しない」と表明、スイスも政府関係者を派遣する意向です。中国の盟友ロシアもプーチンさんが出席を明言し、韓国もボイコットしない方針を固めています。アフリカなど第三世界諸国らは軒並み北京五輪の「支持」表明をしており、参加する目算が高いです。即ち「落ち目の米国とその追随国」の構図になってしまいました。こういった状況になったのならもはやボイコットの効果はほぼゼロになったと言えます。

 しかしそれでも外交上の関係という点を見れば米国のボイコットに追従すべきという保守派論客の主張は正しかったのです。というのも似た構図が今から7年前にもあったからです。何かわかります?アジアインフラ投資銀行(AIIB)の発足です。当時、中国が主導した国際金融組織に多くの国が加盟しました。中でも米国の盟友でかつG7で初の英国が参加したことは大きな衝撃をもたらしました。幸か不幸かその時バイデンさんは副大統領でした。彼にとってはトラウマものでしょう。

 ですがあの時参加せずに米国と共に踏みとどまった国が居ました。それが我が国日本です。それ以降、厳しさを増すアジア情勢の中で両国間の関係は一層深まり、我が国の防衛に大きく資したのは周知の事実です。それを踏まえて見てみればボイコットに参加したオーストラリアと英国は米国と新たな軍事同盟AUKUSに参加していることを思い出すでしょう。

 そうです。もはやこれは「スポーツと政治」という表面的な価値観の抗争ではなく、今後数年の安全保障を賭けた攻防だったのです。

怪我の功名で一転した岸田外交

 さて以上のところまででは岸田政権は米国の不信を買い、今後はオーストラリアと英国が米国と密接な安全保障体制を立てるようになってしまいそうでした。しかし、年が明けて状況が一変します。冒頭で触れた日米2プラス2です。同会合では軍事研究への協力も確約し、近年中国やロシアが開発し配備した極超音速滑空飛翔体(HGV)に対抗する方針も明らかにしました。

ブリンケン氏は研究開発協定について「極超音速の脅威への対抗から、宇宙での機能向上まで、科学者やエンジニアらが新たな防衛関連の問題について容易に協力できるための研究開発の協定を締結する」と説明。オースティン氏は「地域の平和と安定に貢献する日本の能力の高まりを反映し、われわれの役割と任務を深化させる」と語った。(出典:日米2+2、防衛協力強化へ研究開発協定,産経新聞電子版,2022.1.7.,

https://www.sankei.com/article/20220107-4UBTJFS3HJO63GOOZBPGPGE3UU/

 この会合に中国は激しく反発しました。同日、汪文斌報道官が「中国の顔に泥を塗った」と口汚く罵っております。

 

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 我が国の防衛が強化されることに敏感に反応するのはいつものことですが、どうやらそれだけじゃないようです。夕刊フジに面白い記事があります。

 さらに、「習近平国家主席が『岸田首相に騙された』と怒っている」という情報がある。問題は、岸田首相が昨年12月24日、やっと決断した、2月開催の北京冬季五輪に閣僚や政府高官を派遣しない、事実上の「外交的ボイコット」だ。
 続く日米情報当局の情報は、こうだ。
「中国は、岸田首相の決断を『外交的ボイコット』とは100%思っていない。逆だ。『密約通り、中国側についた』と思っている。岸田首相が『外交的ボイコット』とは絶対いわない。『新彊ウイグル自治区での人権侵害(ジェノサイド=民族大量虐殺)』を非難しないことが、その証拠だ。習氏は大喜びだった。メディアに『日本批判を中止して、岸田政権をほめろ』と、極秘命令を出していた。ところが、2プラス2の共同文書で、中国をたたいた。習氏は顔に泥を塗られた。中国国内の日本企業たたき、尖閣諸島急襲など、習氏が報復に走る危険がある」(出典:米国、極秘裏に日本潜伏の〝親中スパイ狩り〟 中国に「極超音速ミサイル」技術漏洩か 議員関与なら岸田政権は震え上がる事態,ZAKZAK by 夕刊フジ,2022.1.12.,

https://www.zakzak.co.jp/article/20220112-EP6Q3S5IVJP5ZH72K24EAETE24/

 この加賀さんの記事は刺激的で面白いものが多いわりにちょっと信憑性に難がありますが、岸田さんの決断したことが外交的ボイコットとは見なされてないのはその時の中国の反応から明らかですし、『中国側についた』は青山さんが言っていた水面下での圧力「アメリカを取るのか中国を取るのか、決めろ!」とぴたりと符合します。そして『騙された』の部分は日米2プラス2に烈火のごとく怒った汪氏の「中国の顔に泥を塗った」と趣旨が一致します。記事の内容が真実なら岸田政権は完全に中国を怒らせたことになります。その証拠に五輪が近づくにもかからわず、海警局による尖閣侵略は継続されており、15日にはとうとう領海に入ってきやがりました。

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 恐らく岸田首相も林外相もバランスをとったつもりでいたのでしょう。北京五輪でギリギリ習近平さんのメンツを保ってご機嫌を取ったから、軍事面で米国と踏み込んだ話してもいいだろうと思ったわけです。それが見事に失敗した形になります。まさに日本的外交……岸田さんが領袖を務める宏池会のかつてのプリンス、故加藤紘一氏の掲げた「日米中等距離外交」が破綻した瞬間であります。

 しかも時期を同じくして北朝鮮からミサイルが立て続けに発射されました。発射されたのはHGVであるとされ、中露に次ぐ脅威として新聞を賑やかせました。それに押されるように、岸田政権は「敵基地攻撃能力」の取得について言及し、ミサイル迎撃の先進技術として「レールガン」の開発を明言しました。

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www.jiji.com 敵基地攻撃について岸田さんは昨年の自衛隊への訓示や所信表明演説でも触れていましたが、あくまで抽象的に「あらゆる選択肢を検討する」の中にぼかされた形でした。それがレールガンのようにはっきりと「開発する」と言ったのは初めてではないでしょうか?まるで1983年にロナルド・レーガン第40代米大統領が演説で掲げた戦略防衛構想(SDI)のようです。日本版SDIですね。

 米中の仲介役になるどころか、逆に旗本を示す結果となりました。まさに失敗の成功、怪我の功名とはこのことです。

対中に色などない

 とまれ青山さんの話では“知米”を自負する林外相の米国の人脈は、中国のそれに比べれば限りなく少なく、バイデン政権の不信を晴らすには遠く及びません。覇権主義・反欧米姿勢を鮮明にする中国に対して、もはや政冷経熱即ち「軍事は米国、経済は中国」の外交スタイルで挑むことは困難になっていくでしょう。オーストラリアのように米国と密接な関係を維持するか、韓国のように中国側へ乗り換えていくか、決断を迫られることになります。香港の顛末を見ていれば、自由と民主主義を尊ぶ国民にとってどちらがいいかは考えるまでもないでしょう。今後は米国に残った不信をいかに晴らすのかが課題です。最悪、早期の内閣改造で外相を取り換えるしかないかもしれません。

 しかし心配なのは中庸(自称)に拘る岸田政権が、対中強硬は「安倍カラー」だと中国……習近平さんのご機嫌を取るため、国賓に招いたり、TPPへの参加を認めたりする可能性です。ちょうど元旦に中国や韓国との経済連携協定RCEPが発行して、参加国間の関税が撤廃されることになります。そこでなおも「だって経済は中国頼み」が頭に染み付いた人たちが活発化することは容易に想像できます。しかし、10年前はともかく今の中国(あと韓国も)はいつ何を口実で無理難題言われるかわからない状態になりつつあります。

www.jiji.com 昔のように相手を立てていればよかった時代から変わりつつあります。常に政治的要素を持ち込まれ、最終的には「日本人」というだけでひどい扱いを受けるようになるでしょう。ウイグル人のように強制収容所に入れられる可能性も出てくるわけです。

 対中政策に色などありません。国民の生活とアジアの自由と民主主義の為に成すべきことをやりましょう。