退化の米国、進歩の日本

 皆さんこんにちは。

 5月より始まったアフガニスタンからの米軍撤収は波乱に満ちた展開となりました。当初はタリバーンアフガニスタンを支配することはないと政権は主張していましたが、撤収の穴埋めをする形でテロリストたちはカーブル(日本のメディアでは“カブール”と呼ばれますが正しくはこれ)を制圧し、ガニ大統領が国外脱出をもってして現行アフガン政府は崩壊となりました。奇しくも日本敗戦の日である8月15日です。

バイデンのトランプ化

 こうした事態に米国国内外から批判が相次いでいますが、当のジョー・バイデン大統領は撤退の方針を崩さず「アメリカにとって正しい」と言ってはばかりませんでした。

駐留米軍アフガニスタン撤収後、武装勢力タリバンアフガニスタンを瞬く間に制圧した事態に、内外から厳しい批判を浴びているジョー・バイデン米大統領は16日、ホワイトハウスで演説し、「自分の決定を断固として堅持する」と述べた。(出典:バイデン米大統領アフガニスタン撤収は「アメリカにとって正しい」 批判は承知と,BBC,2021.8.17.,https://www.bbc.com/japanese/video-58239136)

「批判は全て自分が受ける」と言っている辺り、誠実な彼らしさが出ていますが、主張はともかく撤収後どうなろうと構わないと頑固一徹な様はあの人に似ています。そう、トランプ前大統領です。彼も2019年シリア北東部から米軍を撤収させましたが、同地域で活動するクルド人達がトルコの攻撃を受けても撤退の方針を崩しませんでした。IS(自称イスラム国)との戦いで米軍に大いに協力してくれたにも拘らずです。

www.businessinsider.jp  彼の物言いは歯に布着せぬゆえに物議をかもしましたが、やっていること自体はバイデンさんも変わらないですよ。一部の日本人トランプ支持者は「トランプがやっていればうまくいったはずだ」と主張していますが、同じ結果になっていたと思いますね。そして「彼ら(アフガン民主政府)は我々に大いに付けこんできた」と主張したでしょう。

 こうした事態に陥った背景はバイデン政権もトランプ政権も「アメリカの時代を終わらせる」という大局の中にいるからです。

hatoyabu01.hatenablog.com 韓国の非常識政権と違って、アメリカは政権が変わっても外交政策や安保政策はおいそれとひっくり返したりはしません。そうでなければまともに条約も同盟も結べないからです。したがって2019~2020年にトランプさんが進めていた中東からの撤収計画を完全撤回することはできなかったのです(“凍結”はあり得る)。

 正直、同盟重視という観点で登板してきたバイデンさんですから、あまり大きな冒険はしないと(ギリギリまで現状維持で国防費削減)思っていただけにとんだサプライズでした。

喜ぶのはやはり

 アフガンの顛末に誰が一番喜んでいると言えば、言うまでもなく中国です。タリバーンがアフガン全土を制圧したタイミングで17日に台湾の南西と南東の海空域で軍事演習としゃれこみました。そして社説を通して「今日のアフガン、明日の台湾」と揺さぶりをかけてきました。

中国側は、アフガニスタン情勢も台湾の蔡英文政権への圧力に使っている。環球時報は17日付で「台湾当局はアフガンから教訓をくみ取る必要がある」と題した社説を掲載。米軍の撤収決定がイスラム原理主義勢力タリバンが実権を握ることにつながったことをとらえ、「(蔡政権は)米国は『頼りにならない』と静かに知っただろう」という一方的な見方を示した。(出典:三塚 聖平,中国が米台を牽制 軍事演習やアフガン情勢も使い,産経電子版,2021.8.18.,

https://www.sankei.com/article/20210818-VVAZRC5PONN3FLKLT5I3IZBXSU/)

 こうしたかの国のプロパガンダ戦術にバイデンさんは慌てて「アフガンと日本(などの他の同盟国)は違う」と言い放ってしまいますが、悪手です。カーブルで人々が逃げ惑う様子を見せられてから「大丈夫、君たちはこうならないよ」なんて言ってどれだけの人が信じるのでしょうか?おまけのその後で「米国の台湾政策(一つの中国政策・台湾独立不支持)に変更はない」とオチがつく有様。そうそう、7月6日にカート・キャンベルが明言しましたね「台湾独立を支持しない」と。予想通りです。

hatoyabu01.hatenablog.com

 念のために申しますが、台湾は1952年に日本が放棄して以降、どこの施政下にも入っておらず、中国からも自立した状態にあります。「台湾独立」と言っている時点で中国共産党の術中に嵌っているのです。

 この状況に一番動揺しているのは韓国です。対北朝鮮を念頭に置いた米韓軍事演習が年々縮小している事態に保守派は危機感を募らせ、逆に左派は期待に胸を膨らませています。

危機に立ち上がる日本

 大局の予想の範囲内であるとはいえ、これほどに「世界のリーダーから降りる米国」の象徴にされそうな出来事が起こるとは思いませんでした。歴史とは奇想天外なものです。1975年のサイゴン陥落を想起させられますが、あちらは撤退完了が1973年ですから、むしろ退化しているようにさえ感じます。

 その一方で我が国日本は重要な一歩を踏み出しました。当初、カーブル陥落を受けて在アフガニスタン日本大使館は一時閉鎖を決行し、大使館職員12名は英空軍機に乗ってさっさとドバイに逃げてしまいました。

jp.reuters.com  アフガン内の邦人も大使館で雇ったアフガン人たちも置き去り、外国に協力した同国民がタリバーンに報復されると懸念されている中で、自衛隊も動かず「ああ、いつもの日本か、アルジェリア人質事件の二の舞か…」と達観しそうになったところにそれは起こりました。

関係者によると、自衛隊機で国外退避するのは国際機関に勤める邦人のほか、在アフガン日本大使館国際協力機構(JICA)で働いていた現地スタッフとその家族ら。スタッフは大使館、JICAともそれぞれ数十人程度が現地に残っており、本人の希望を踏まえ対応する。退避先は中東のカタールとする方向で検討しており、政府は職員を派遣し、調整に当たる。(出典:<独自>アフガンに自衛隊機 邦人保護へ23日にも,産経電子版,2021.8.22.,

https://www.sankei.com/article/20210822-ELJEDMP6B5IVZEB5LTDMECB32Q/)

  自衛隊が出ました!まず、我が国が誇る足の速いC-2輸送機が現地で拠点を構築する資材を運び、米製のロングセラー機であるC-130が主に輸送を手掛けるそうです。政府はさらに政府専用機も投入しました。

www.sankei.com  これの何が画期的なのかと言えば、背景を見ればわかります。2013年のアルジェリアの事件以降自衛隊法の法改正が進み、在外邦人の陸上輸送(2013年11月)、そして武器を使った保護(2015年平安法)が取り決められました。自衛隊法第八十四法の三と四です。しかしこの条文、特に三項について次の三点が条件とされていました。

 当該外国の領域の当該保護措置を行う場所において、当該外国の権限ある当局が現に公共の安全と秩序の維持に当たつており、かつ、戦闘行為(国際的な武力紛争の一環として行われる人を殺傷し又は物を破壊する行為をいう。第九十五条の二第一項において同じ。)が行われることがないと認められること。
 自衛隊が当該保護措置(武器の使用を含む。)を行うことについて、当該外国(国際連合の総会又は安全保障理事会の決議に従つて当該外国において施政を行う機関がある場合にあつては、当該機関)の同意があること。
 予想される危険に対応して当該保護措置をできる限り円滑かつ安全に行うための部隊等と第一号に規定する当該外国の権限ある当局との間の連携及び協力が確保されると見込まれること。

 要は邦人を救出しに行く現場の国の了解・協力を得ること、戦闘が行われていないことが条件とのこと。過去の邦人救済はこの条件を満たしていましたが、今回アフガン政府は崩壊しており、後釜に座る予定のタリバーンは政府としての信認を受けていません。また現地ではタリバーン兵士が市民に発砲するなど、戦闘が行われていないとは到底言えない状態。ざんねーん条件を満たさない、自衛隊出動はなーし。と誰もが思うでしょう。実際、大使館職員の退避を先行させたのはそれを想定してのことではないでしょうか。

 そこに8月19日、自民党で開かれた外交部会で、アフガンへの邦人救出へ向けた働きかけがなされたと参議院議員青山繁晴氏が動画で発信しております。

www.youtube.com 同日の部会では「アフガニスタン情勢」として外務官僚が大使館を閉鎖した経緯などを淡々と説明しただけとのこと。そこに青山さんが「なぜSDF(自衛隊)は出ない」と発言しました。「2013年のアルジェリアでの犠牲を忘れたのですか」「2018年を忘れたのですか」と。

 2018年とは鳥取で行われた海外邦人を救出する想定で行われた訓練です。実際に装備や人を動かした実動訓練で、輸送防護車や暴徒対策用の音響兵器が使われたそうです。

trafficnews.jp  これだけのことをしておきながらなぜ今使わない!青山さん一人がすべてを動かしたわけではないでしょうが、官僚は法律に基づいて動かざるを得ないので、その都度政治家が法改正や政治判断によってそれを正していく必要があります。それが功を奏して今回の出動が実現したのです。

 確かに踏み出された我が国の確かな一歩。その先に北朝鮮拉致被害者の救出がある事を望みます。