バイデン政権がやる事・やらない事

 皆さんこんにちは、ハトヤブです。バイデン政権が発足してかなり時間が経ちました。前政権のトリッキーなトランプさん就任前の時と同様、希望絶望入り混じった論評があふれております。基本的に私は悲観的な立場で見ることが多いのですが、今回はリアリスティックに予想して彼がやりそうなこと、やらなさそうなことを上げていきたいと思います。

 バイデン氏がやる事

 先ず、バイデン政権が確実にやりそうなこと(あるいは既にやっている)ことを挙げていきます。

 中国人権問題

 一番目に意外と思われるのが既に取り組んでいる中国の人権問題です。「あれ?親中じゃなかった?」という声が出てくるでしょうが、そもそもこれは以前からも訴えられてきたものですし、日本の親中と違って「問題が存在しない」ことにしないのがアメリカです。実際、一昨年の香港人権法などは超党派で決議されたものですからね。

「なら反中じゃん」と思われるかもしれませんがそこが落とし穴であり、小手先の訴えなど中国にとっては痛痒を感じません

中国外務省の華春瑩(か・しゅんえい)報道官は20日の記者会見で、中国によるウイグル族などのイスラム教徒少数民族に対する弾圧を「ジェノサイド(民族大量虐殺)」と米国が認定したことについて「紙くずだ」と猛反発した(出典:中国が米のジェノサイド認定に「紙くず」と猛反発,産経新聞デジタル版,2021.1.20,

https://www.sankei.com/world/news/210120/wor2101200022-n1.html)

 勿論、中国が反発しているということはそれだけ彼らの威信を傷つけることになるのでしょうが、具体的に何ができるのかと言えば関係者の入国制限とか米国内の資産凍結ぐらいです。バイデン政権はウイグル自治区産の綿花の輸入を禁止したそうですが、産地偽装とかされたらどうするのでしょうか(何もしない我が国よりはましですが)。

 今後、注目されるのは被害者当事者への支援でしょう。世界ウイグル会議の総裁をホワイトハウスに招いて会談したり、支援金を別途出したりしそうです。あとはチベット問題にも言及し、ダライ・ラマ14世とも会談するでしょう。逆にこれができなければ偽物です。

 東アジアの緊張緩和

 次にやりそうなのは一見相反するように見える米中緊張緩和です。型にはまらないトランプさんは在任中、台湾総裁と電話会談をおっぱじめたり、米高官を台湾に訪問させたり、さらに新型のF-16戦闘機等を売却するなど、中国を十二分に刺激することを繰り返していました。

 一方、バイデン氏も就任式には台湾の駐米代表を招くなど、関係強化をアピールしていますが、就任後間もなく中国軍機が台湾の防空識別圏に侵入する出来事がありました。

 習近平国家主席率いる中国軍は23、24日、台湾の防空識別圏(ADIZ)に戦闘機や爆撃機など計28機を進入させた。対中融和派との指摘を払拭するように「米台連携」を打ち出したジョー・バイデン米新政権を挑発し、値踏みした可能性がある。これに対し、米国務省は、中国共産党政権に、台湾への軍事、外交、経済的な圧力を停止するよう求める声明を発表した。(出典:中国、「米台連携」のバイデン新政権を値踏みか 台湾の防空識別圏に戦闘機など28機進入、併合のチャンス見極めか,ZAKZAK,2021.1.25.,

https://www.zakzak.co.jp/soc/news/210125/for2101250003-n1.html)

 最初23日に中国が13機の戦闘機を侵入させたことを受けて、米国務省が声明を発したわけですが、翌日の24日には15機もの戦闘機が侵入を試みたとか。南シナ海に米空母「セオドア・ルーズベルト」を中心とする打撃軍を入れたことに対する行動とみられていますが、一歩も引かない相手の姿勢はバイデン政権にとってかなりのインパクになったはずです。ビビるとまではいかずとも、不測の事態が起こらぬよう慎重になるのは確実でしょう。トリッキーなトランプさんとの違いを強調するためにも抑制的に振舞って緊張緩和を図ると思います。

 ノーベル平和賞を目指す

 もう一つバイデン大統領が目指すと確実に予想されるのはノーベル平和賞です。彼が副大統領をしていた当時、オバマ元大統領が「核なき世界」の演説をしたことで受賞し、タカ派と思われがちなトランプ前大統領も受賞を狙っていました。これは私の主観ですが今やアメリカ大統領のステータスシンボルの一つに平和賞の受賞が不可欠なものになりつつあると考えています。それを想起する一例として、以下のことがあります。

11月の米大統領選で民主党候補の指名獲得を確実にしているジョー・バイデン前副大統領は6日、広島への原爆投下から75年の節目にあわせて声明を出した。「広島と長崎の恐怖を決して繰り返さないために、核兵器のない世界に近づくよう取り組む」と表明し、オバマ前大統領が掲げた「核なき世界」の理想を引き継ぐ考えを明確にした。(出典:バイデン氏、「核なき世界実現」継承…原爆投下75年で声明 ,読売新聞電子版,2020.8.8.,

https://www.yomiuri.co.jp/world/uspresident2020/20200808-OYT1T50178/)

 この理想(厳密には核少なき世界)を掲げ、失効が近づいていた新戦略兵器削減条約(新START)の延長を公約しているわけですが、この条約は戦略核弾頭と弾道ミサイルを対象としており、戦術核としての極超音速兵器は想定していない、また米露だけで中国が参加していない問題があります。それでもバイデン氏は平和の象徴としてこの条約を維持したいのです。実のところ中国の人権問題に取り組むのも、平和賞狙いの側面もあるかもしれません。

 バイデン氏がやらない事

 次にバイデン政権がやらないであろうと確信できることを三つあげます。

  • 台湾国家承認
  • 米中デカップリング
  • 米中戦争はしない
 台湾国家承認はしない

 まず絶対しないであろうと確信できるのは、トランプさんが一時はするかと噂された台湾国家承認です。かつて中華民国と断交し、中華人民共和国との国交を結んだときに共産党政権を唯一の合法政府とした「一つの中国」に合意しております。しかしトランプさんは「一つの中国」政策に縛られることに疑問を呈し、上述した関係深化を図りました。2018年には台湾旅行法ができ、政権終盤には台湾と政治高官をやり取りする自粛を完全解除としました。

 しかしバイデン政権は「一つの中国」政策の堅持を明言しております。

 米国務省のプライス報道官は3日の記者会見で、バイデン政権が中国本土と台湾は不可分の領土とする「一つの中国」原則を堅持する考えを示した。「米国の政策は変わっていない」と強調した。(出典:米、「一つの中国」を堅持 政策不変と国務省報道官,産経新聞電子版,2021.2.4.,

https://www.sankei.com/world/news/210204/wor2102040022-n1.html)

 念のため重要な補足ですが、アメリカは中国共産党政権を中国の唯一の合法政府と認めただけで、台湾が中国の一部であることは主張を認識しているだけで承認はしていないのです(日本も似たような形だったりします)。しかし、狡猾な中国は「一つの中国」=台湾は中国の一部というプロパガンダを長年続け、日米の多くの人がそう思い込むように既成事実化しているのです。

 よってバイデン政権が「一つの中国」政策を堅持するからと言って、即ち台湾を売り渡すようなことはありませんが、トランプさんのような火中の栗を拾うような行動は慎む可能性があります。実のところ、トランプ政権より前の政権では「一つの中国」政策と共に「台湾の独立*を支持しない」と発言して中国を喜ばせていました。その時もアメリカは台湾関係法に基づき防衛を担うとしてきましたから、バイデン政権が台湾関係重視を謳いながら「独立*は支持しない」と発言しても何もおかしくはないのです

(*台湾独立というのは誤りで、そもそも台湾は中華人民共和国の施政下に入ったことはなく、政治体制も完全に自立しています。したがって台湾独立を支持するか否か言っている時点で中国のプロパガンダに毒されていることになります)

 当然国家承認なんて夢のまた夢ですから、それがはっきりとした瞬間、中国はニコニコ顔で米中冷戦のデタント(雪解け)を演出する可能性があります。その時こそ、バイデン政権が真に中国に厳しいかわかるのです。

 米中デカップリングはしない

 あともう一つ、明確に言えるのはバイデン政権は最後まで中国とのカップリング(断交)に踏み切らないだろうということです。バイデン氏個人の問題というよりもアメリカや日本等自由主義諸国共通の問題で、経済の結びつきを強めすぎたという失態があります。前政権においても対中国強硬姿勢にシフトした象徴の一つ、2019年10月のペンス副大統領の演説でもデカップリングは否定されているし、2020年7月のポンペオ国務長官の演説でも「封じ込めでない」と発言しています。

 つまり自由主義国家であるがために、中国とのつながりを全てシャットアウトできずグローバリズムを否定する孤立主義に転換して、他の自由主義国に連帯を求めたのがトランプ政権の対中戦略の本質です。しかしバイデン政権は国際協調を基調とし、中国に対しては「戦略的忍耐」で挑む意向を示しました。

サキ氏は会見で、習氏の主張はバイデン政権による中国への戦略的アプローチを変えるものではないとし、「ここ数年、中国は国内でより権威主義的になり、国外ではより自己主張を強めている。中国政府は安全保障、繁栄、価値観において大きな挑戦を挑んでおり、われわれも新たなアプローチが必要だ」と述べた。

さらに、「われわれは戦略的な忍耐を持ってこの問題に取り組みたい」と述べ、ホワイトハウスが今後数週間以内に、この問題について議会や同盟国などと協議すると述べた。(出典:米新政権、中国に「戦略的忍耐」で対応 企業規制解除は慎重,ロイター通信日本語版,2021.1.26.,

https://jp.reuters.com/article/usa-biden-china-idJPKBN29U2EP)

 この戦略的忍耐という言葉にはオバマ政権の北朝鮮政策を思い出されます。「非核化を前提としない限り対話に応じないで制裁を維持する」というものでしたが、結果的に相手に核開発するのに十分な時間を与えただけでした。今回、対中政策としてどんな「新たなアプローチ」をとるのかわかりませんが、国際社会で嫌々手を握りながら、北米大陸に籠ってギャンギャン人権問題を訴える以外の妙案があるのか見ものです。

 逆に中国側からバイデン政権を懐柔するアプローチとしては同政権が力を入れると公言している気候問題になるでしょう。何しろ、こんな記事が出るくらいですから。

 ケリー氏は1月27日の記者会見で、気候変動対策は米中にとって「重要な問題だ」とした上で「知的財産窃取や南シナ海問題といった中国との全ての懸案に関し、気候変動(をめぐる協議の)取引材料には決してしない」と強調していた。(出典:米「南シナ海と環境、取引しない」発言に小泉環境相「心強い」,産経新聞電子版,2021.2.2.,

https://www.sankei.com/life/news/210202/lif2102020011-n1.html)

 そもそも環境問題安全保障を天秤にかけること自体常軌を逸しており、自分から言ったのか、質疑応答で出たのか、いずれにせよこんな発言が出ること自体が異常事態です。というのも、新しい米国務長官アントニー・ブリンケン氏はケリー気候変動対策大統領特命大使の後輩であり、中国にとってはケリー氏さえ押さえればアメリカ政治を操れると考えるからです。気候問題にこれほどの大物を抜擢するなんて、よほどバイデン氏は気候問題に力を込めているのかがわかります。ひょっとしたらこの案件で功績を収めたことによる平和賞受賞も狙っているのかもしれませんね。

 米中戦争はしない

 最後にこれだけはしないと確信できるのが、米中戦争です。「え?嘘やろ?いつ米中開戦するか一色触発の事態やって」と思われるかもしれません。そうですね。可能性はゼロではないです。10%位でしょうか?シナリオとしては習近平総書記が自信過剰になって、戦略もなしに台湾やら沖縄やら、果てはグアムなどに人民解放軍をけしかければバイデン政権とて戦争に応じざるを得ません。アメリカには日本の9条みたいなものはありませんからね。

 しかし、大きな犠牲を強いることになります。何しろ相手は保有です。核戦争にまで発展してしまえば、アメリカの主要都市が核の炎に晒されます。人命を重んじ、民主主義の上に立つ指導者としてそれを決断できるのは、「自衛」という正当性がある場合のみです(逆に言うと相手が核保有国でない小国の場合はハードルが低いです)。

 現状では純粋な戦力差を比較すると中国は米国の足元にも及びません。最近、空母やら強襲揚陸艦やら建造していますが、まだ練度は未熟でしょう。しかしそれでも着実にレベルアップをしており、決して楽観できる状態ではありません。それに米軍は世界に展開しているため、局地戦では負ける可能性さえあるのです。

 さらに米国が中国と事を構えにくい大きな理由があります。それはロシアと違って米中は大洋を隔てて離れすぎており、国民が切迫した脅威に感じないのです。おまけに間には大きな大国が堤防のごとく立ちはだかっています。何かわかります?そう、私たち日本です。

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(出典:Google Earth より,赤い覇権主義を抑える壁日本)

 以上のような理由からアメリカは自分から中国に戦争をけしかける可能性はかなり低いです。少し前に騒がれた人工島の爆撃計画アメリカが先制してする可能性は殆どありません(もしやるならオバマ政権の時代に対空火器が運び込まれる前にやってます)。戦争とは落としどころが付かなければ、どんどん拡大するものであり、一歩も引かない姿勢の相手に先に攻撃した場合、かなり厄介なことになります。自国に被害が及ぶ可能性があるとするなら猶更です。

 そういうことなのでアメリカは、これまで日本や台湾をいざという時に護る代わりに、あまり敵を挑発する真似はするなと釘を刺してきました。それが結果的に日本の対米追従と呼ばれる政治や、台湾冷遇という苦境をもたらしていたのです。ただし、このいざという時の可能性は、中国が力をつけるごとに着実に上昇していきます。トランプさんはただ座してそれを待つのではなく、日本や台湾の自立を促進して米軍の負担を減らそうとしました。バイデン氏も最終的にはその結論に達するでしょうが、トランプさんのようなインパクトのある決断ができるのか未知数です。

 先祖返りする日本

 我ながら情けないと思うのは、我が国の政府が従来の政治に戻ろうとしていることです(安倍政権が終わったせいもあるでしょう)。尖閣諸島日米安保5条が適応すると聞いて喜び、自由で開かれたインド太平洋と聞いて喜ぶ有様です。その上バイデン氏と菅首相の電話会談で中国の話題が出たにもかかわらず、中国に配慮するように報道資料から中国の字を抜く始末です。当分は対中強硬とみなしながらも、トランプさんのようなトリッキーな真似はしないだろうと踏んでのことでしょう。下手すれば中国とのパイプ役になろうとも考えているかもしれません。いったん延期された習総書記の国賓訪日も諦めてないでしょう。

 これを改めさせるには在日米軍駐留費4倍のプレッシャーをかけることがいい薬になっただろうに、残念なことです。