安倍氏の米・イラン仲介作戦は失敗する運命にある

 イランの米軍基地に対する弾道ミサイル攻撃から二日後、トランプ大統領は軍事報復を押し留めました。イランも攻撃は米国による司令官殺害の報復だとしてこれ以上のエスカレーションは望まないようです。結局司令官殺害移行「戦争だ!」と一番騒いでいたのは日頃護憲を標榜していた自称平和主義者たちでした。

殺害されたのは国民的英雄 後戻りできない米国とイラン(朝日新聞デジタル,2020/1/3)

 有料記事なのでタイトルだけですが、これだけでも彼らがいかに騒いでいるかわかるものです。
 一方、安倍政権の支持層では安倍首相の外交によってイランと米国の仲介ができると期待を寄せています。しかしそれは叶わないと私は考えています。はっきり言って仲介は100パーセント失敗します。
 念のために申し上げておきますが、これは反安倍活動家のプロパガンダではありません。彼らは本質が見えてません。ぶっちゃけて言えばこの件は日本人のだれが挑んでも無理なのです。

 令和元年タンカー攻撃の衝撃

 米国とその同盟国との対立を深めるイランが唯一友好を保っている親米国家があります。我が国日本です。我々は欧米と違って中東に軍事進出したことはありませんし、イスラム教徒を迫害したこともありませんからイランには敵対する理由がなかったのです。
 しかし昨年2019年、ホルムズ海峡で日本の海運会社が運航するタンカーが攻撃されました。奇しくも日本の内閣総理大臣安倍 晋三がイランの最高指導者 ハメネイ師と会談している時です。

 中東のホルムズ海峡近くのオマーン湾で13日、日本の船舶を含む2隻の石油タンカーが何者かの攻撃を受けて炎上した。
(中略)
 13日のタンカーへの攻撃は、安倍晋三首相が緊張を緩和しようとイランを訪問し、最高指導者のハメネイ師と会談するタイミングで起きた。
(出典:ホルムズ海峡でタンカー2隻攻撃、原油価格急騰,日本経済新聞電子版,2019/6/13 ,

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO46059350T10C19A6MM8000/

 事件当初から米国はイラン革命防衛隊の犯行と主張し、イランはこれを否定しています。日本政府ははっきりとした態度を示しませんでしたが、国内では多くの人が憶測を繰り広げる形となりました。イラン強硬派の暴走とか、米国の偽旗作戦とか様々に言われています。
 しかし私は米国の偽旗作戦はありえないと思います。というのもよく引き合いに出されるトンキン湾事件では北ベトナム軍侵攻という嘘の報告があったその日に大統領は空爆を決定しています。つまり米国の陰謀なら6か月も前に戦争は始まっているはずです
 イラン強硬派の暴走もないです。イラン強硬派や革命防衛隊は敬虔なイスラム教徒であり、ハメネイ師を崇拝しています(そもそもイラン革命防衛隊はハメネイ師直属の軍です)。したがって、彼の意に反した行動をするなどイランがひっくり返らない限りありえません。
 つまりあの事件を指示したのはハメネイであると私は考えています。「日本の総理と会談している間に?ありえない!自分と日本の顔に泥を塗るようなものだ」と反論なさる方もいらっしゃるでしょう。何人かの識者はこれを理由にイラン側の犯行を全否定しています。

 しかし事件そのものは(世論戦は別として)イランにとって有利に働くものです。というのも事件の前月、トランプ政権が日本など8か国に対する制裁適用除外を撤廃して以降、イランの石油輸出は大きく激減しています。

 市場関係者によると、イランの足元の輸出は25万~50万バレル程度。200万バレルを超えていた18年のピークに比べて4分の1以下だ。イランは19年度予算で150万バレル程度の輸出を見込んでいたが、歳入の柱である原油の販路を失い、将来世代のために蓄えた政府系ファンドの資金の取り崩しを迫られている。(出典:イラン、米制裁で原油輸出半減,日本経済新聞電子版,2019/6/12,

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO46015110S9A610C1EA1000/

 この状況でタンカーがホルムズ海峡を通れない事態になれば、一番困るのは敵対している他のアラブ諸国サウジアラビアなど)です。また、日本が石油を仕入れられなければ、日本の沖縄にある米軍海兵隊基地にも石油が届きません。自覚はないでしょうが我が国は米国の中東作戦の重要な前線基地なのです。

 ハメネイ師のメッセージ

 ここで安倍首相とハメネイ師の肝心の会談の様子を振り返ってみましょう。

 イランの最高指導者ハメネイ師は13日、同国を訪問中の安倍普三首相に対し、イランは米国と交渉するという「苦い経験」を繰り返さないと述べた。イランのファルス通信が伝えた。
 安倍首相はトランプ米大統領からイラン指導部へのメッセージを預かっていたが、ハメネイ師は「トランプ(大統領)とメッセージを交換する価値はない。今も今後も返答することは何もない」と述べた。(出典:イラン最高指導者、トランプ氏への返答拒否 安倍首相と会談,ロイター通信日本語版,2019年6月13日,

https://jp.reuters.com/article/iran-japan-usa-khamenei-idJPKCN1TE1AK

 会談全体ではイランと日本の友好を演出しつつも、ハメネイ師は米国の核合意離脱を「苦い経験」と称し、トランプ大統領との交渉を仲介する安倍総理の提案を無碍に跳ねのけています。お世辞にもいい雰囲気とは言えません。

 ハメネイ師は「イランは米国を信頼しておらず、JCPOA(包括的共同作業計画=イラン核合意)の枠組みにおける米国との交渉での苦い経験を絶対繰り返さない」とし「賢明で誇りを持った国は圧力のもとでの交渉を受け入れないものだ」と語った。

 また安倍首相に対し(中略)「日本はアジアの重要な国だ。イランとの関係拡大を望むなら、他の国々と同様に断固とした姿勢を取るべき」と述べた。(同上)

 安倍外交を批判している人でさえ、この二つの発言に注目している人はほとんどいません。しかし、私が考える仮説が正しければこれらは我が国に対する重要なメッセージであり、ホルムズ海峡で起こった事件と繋がるものです。

 

 これは私の予想ですがイランは安倍総理に最高指導者との面会を通して、日本の対イラン制裁の離反を求めていたのだと思います。トランプ政権が打ち出した石油全面禁輸措置は、石油が主産業のイランにとって国内経済に直結する制裁です。それを少しでも緩和するためイラン政府は安倍政権に対して輸入の継続を求めていたのでしょう。しかし安倍総理はそれを頑として受け入れませんでした。だから失望の証としてタンカーを攻撃したのです。

  日本の前科

 「いや、日本に制裁やぶりを期待するなんてどうかしてるよ」と思ったそこのあなた。日本には世界から孤立するイランを救った前科があるのをご存じでしょうか。「海賊と呼ばれた男」のモデルにもなった事件「日章丸事件」です。

 1953(昭和28)年3月、出光は、石油を国有化し英国と抗争中のイランへ、日章丸二世を極秘裏に差し向けました。同船は、ガソリン、軽油約2万2千キロℓを満載し、5月、大勢の人の歓迎を受けて川崎港に帰港しました。

 この「事件」は、産油国との直接取引の先駆けを成すものであり、日本人の目を中東に向けるきっかけになりました。また、敗戦で自信を喪失していた当時の日本で、国際社会に一矢報いた「快挙」として受け止められたことも歴史的事実です。(出典:出光興産株式会社 社史より,https://www.idss.co.jp/enjoy/history/idemitsu/chronicle/20.html)

  1950年代以前イランの油田は英国の会社が所有していましたから、それを国有化して直接輸出することは欧米中心の国際社会に挑戦する行動でした。それを日本の一中小企業が果敢にも協力したわけです。

 今の協力者は中国

 一方、今日において国際社会に挑戦している国があります。中国です。かの国は自分の権益を広げる一環として反米の国を支援しています。イランもその対象であり、トランプ政権が多くの国に制裁協力を強いる裏側でちゃっかりと交易を続けています。

アメリ財務省は、23日、アメリカの制裁に違反してイラン産の原油や石油精製品を中国やUAE=アラブ首長国連邦に輸出するのを支援したとして、上海や香港それにドバイを拠点にする企業4社をアメリカの制裁の対象に加えると発表しました。

(中略)

また、アメリ国務省も23日、イランの輸出に関わったとして、中国と香港の企業3社と関係者2人に対する制裁を発表しました。(出典: 米トランプ政権 イラン支援の中国企業など制裁と発表,NHKオンライン, 2020年1月24日,

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200124/k10012257751000.html

  対北朝鮮制裁でも非協力的だっただけに中国の対米協調のなさは筋金入りです。制裁の巻き添えになってようやく重い腰を上げる形で2017年末の強い圧力を実現しました(とはいえ非核化は2年後の今になっても進まぬまま)。単なる政治圧力だけでは動かず、経済的実害が出て初めて応じる様は我々日本にとって滑稽に見えます。しかし、独立した外交という観点からみれば、言われるがままにひたすら米国に追従する我々も第三者からみれば滑稽に見えるでしょう。

 選択肢のない日本

 ならば日本は米国から距離を置き、独自外交を進めればいいのでしょうか?それは愚策です。というのもイランの核保有がまかり通ることは、巡り巡って北朝鮮の核容認に繋がり我が国に対する脅威を増大させるからです。公式には認めていませんが、イランは北朝鮮核開発やミサイル開発において協力関係にあることがわかっています。

米欧の情報機関はイランが北朝鮮に多額の資金を提供し、同国の弾道ミサイル核兵器の技術を得ているとの見方を強める。(中略)

国連や米国の経済制裁にさらされる北朝鮮にとっては、核合意を受けて資源輸出を拡大するイランから核・ミサイル開発に必要な資金を獲得できるメリットがある。(出典: 北朝鮮の核・ミサイル開発 イランに協力疑惑 ,日本経済新聞電子版, 2017/9/26,https://www.nikkei.com/article/DGXKASGM25H7R_V20C17A9FF1000/

 独自に核武装する覚悟のない日本にとって核拡散は国家存亡の危機です。自分より国力の小さい国々にも短時間で滅ぼされる可能性が出てくるのですから。外交では周辺国すべてに気を使い、突き付けられる要求を悉く丸呑みする羽目になるでしょう。そうしたらいかに経済大国であれど国際的地位は三流以下になり、ついには領土さえ失ってしまいます。

 そんな日本にとって核の不拡散は核廃絶の妄想に浮かれ続けるために維持されるべきことであり、奇しくも自国の優位性を継続したい米国と利害関係を同じにするものです。戦後75年の平和は米国の圧倒的優位性にのみ依存してきたことから目を背けてはいけません。

 そしてその代償が今の日本の外交力の低さです。中韓からは歴史認識問題と称して靖国や教科書について内政干渉を受けたり、露韓には北方領土竹島を未だに占拠されたままです。挙句の果てには北朝鮮に囚われた拉致被害者全員を取り戻すこともできず、中国に尖閣沖縄北海道まで狙われる始末。自称リベラルの言論人や左派政党が「軍事力よりも外交力を!」という掛け声がいかに空虚な妄言であることが痛いほどにわかります。

(2月6日、北朝鮮拉致被害者 有本恵子さんの母、嘉代子さんが94歳で亡くなりました。ご冥福をお祈り申し上げます)

 イランの強かさ、誇り

 ひょっとしたら皆さんの中にはイランが北朝鮮と協力していることに「え?イランは親日じゃなかったの!?」とショックを覚えている人もおられるでしょう。ですが国際関係どころか普通の人間関係でも親しい=都合のいい国・人とは限らないのが世の常です。日本がイランの事情に無関心でいるようにイランも日本の事情に無関心です。その証拠に2012年4月かの鳩山由紀夫氏が周囲の反対を押し切って訪問したイランで、「IAEA二重基準」と批判する言質を取られ大々的に報じられた例があります。

 先ほど述べたように核廃絶の妄想にふけりたい日本人にとってIAEA(というよりNPT体制そのもの)の不平等性は決して触れてはいけない聖域だったのですが、イランにとっては知ったことではないのです。彼らにとって大切なのはイラン革命から続く体制の維持であり、少数派のシーア派の支援であり、ペルシャ人の誇りであるのです。

  「賢明で誇りを持った国は圧力のもとでの交渉を受け入れないものだ

イランとの関係拡大を望むなら、他の国々と同様に断固とした姿勢を取るべき

 この言葉の意味が自ずと分かってきます。ハメネイ師は安倍総理との会談において、かつての誇りを失い大国のスポークスマンに成り下がった日本を諭していたのです。

 

 日本の外交に何が欠けているのか、どうすれば改善できるのか?右左関係なく、今一度皆さんで一緒に考える必要があります。答えが出ない限り、日本人にはナイーブな外交しかできません。

 

(2/11 本文中一部表現修正)