中国が覇権主義を突き進む理由(3)

(続きになります)

 前回(1),(2)を読んでいただいた方の中には「自由とか民主主義がどうたらより、やっぱ仲良くすればいいんじゃね?」とおっしゃる方もいるでしょう。日中友好のために自由と民主主義を犠牲にするかは物議をかもしそうですが、「仲良くしたほうがいい」という点については皆さんの一致した見解でしょう。別にそれは間違っていないのですが、もし相手に「仲良くする振り」をされていた場合、とんでもない番狂わせを食らうことになるのです。

  米国の政治学者マイケル・ピルズベリーは著作「China2049」で中国の外交方針と国家戦略について次のように書いています。

やがて見えてきたのは、タカ派が、北京の指導者を通じてアメリカの政策決定権を操作し、情報や軍事的、技術的、経済的支援を得てきたというシナリオだった。(中略)それは「過去100年に及ぶ屈辱に復讐すべく、中国共産党革命100周年にあたる2049年までに、世界の経済・軍事・政治のリーダーの地位をアメリカから奪取する」というものだ。(中略)そのゴールは復讐、つまり外国が中国に味合わせた過去の屈辱を「清算」することだ。(出典:マイケル・ピルズベリー、 野中香方子、 森本敏,China 2049 秘密裏に遂行される「世界覇権100年戦略」,2015,日経BP社,p30-31)

  つまり「仲良くする」のはアジアや世界の覇権を手に入れるために力を蓄えるためであり、最終的に復讐するためであるというのです。もしこれが本当なら米国にのみならず、日本の対中政策が根本的にひっくり返ります。ここでまた私が提示した四つの漢字に戻りましょう。

 欲・統・怒・恐

 中国が覇権主義に突き進む理由として掲げた漢字のうち、ピルズベリー氏が著書で触れているのは(怒り)になります。

  ~100年の屈辱を継承した国

  前回の統で申したように中国共産党は時代と共に正統性を変節させてきました。そして「民族精神の継承者と創造者」として名乗り上げた以上、過去の中国の歴史を無視できなくなりました。華夷思想はどちらかというと明るい歴史ですが、同時に「負の歴史」も背負うことになります。

  少し古い話ですが2015年10月に習近平国家主席が訪英した時(この頃は中国主導のアジアインフラ投資銀行に英国も参加し、中英蜜月が謳われていました)に晩さん会で彼が言った言葉に反応した英国人ジャーナリストがいるのです。

習氏は、晩餐会で「中国の茶は英国人の生活に雅趣を添え、英国人が丹精を凝らして英国式の紅茶とした」とスピーチした。私はこのシーンをテレビで見て、「これは復讐だ」と直感した。

(中略)大英帝国の「負の遺産」を女王陛下の前で持ち出して、「新中国」と称する中華帝国の皇帝を演じて、英国への復讐開始を淡々と述べたといえる。(出典:藤田裕行,習主席の晩餐会スピーチは英への「復讐開始」宣言 H・S・ストークス氏,zakzak,2015.10.27,http://www.zakzak.co.jp/society/foreign/news/20151027/frn1510271140001-n1.htm

 歴史を学んでいる人なら100年前の19世紀後半から20世紀前半は中国にとって受難の連続であることを知らない人はいないでしょう。上記事で言う「負の遺産」とは当時の中国清にインドで栽培された大量のアヘンが流れ込んだ三角貿易を指しています。そして清の官僚がアヘンを焼却したことがきっかけで起きたのがアヘン戦争です。この戦争で清は今日騒動になっている香港を失いました。以降列強諸国による中国の半植民地化が進み、1895年日清戦争で我が国が勝利を収めてからは列強による本格的な分割が始まってしまいます。

 China imperialism cartoon(出典:Henri Meyer [Public domain]Wikipediaより,https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B8%85)

 そして20世紀中盤は我が国が西洋諸国に対抗するために満州国を建国し、さらなる中国大陸への権益を求めた末に日中戦争(シナ事変。これが遠因で我が国は国際社会から孤立し、ナチスドイツと同盟、対米戦へと向かっていきます)へ突入します。皆さん十分存じ上げていることと思います。

 こういった「負の歴史」は見方を変えれば、中国の指導者にとって国家目標上の重要なファクターになりえます。スポーツの世界でも雪辱を果たすために努力できることが経験則で理解されてますね。実際、南京にしろ慰安婦にしろ彼らの主張が激しくなったのは1990年代後半からです。折しも江沢民氏が国家主席の座にいた時期です。

 つまり、中国共産党は国を挙げて日本を含めた西欧列強からの侵略の歴史を怒りの力にすることで今日の急進的な台頭を実現したのです。2018年3月に開かれた全国人民代表大会で習主席は演説で次のように発言しています。

中国人民は(アヘン戦争から)170年余りにわたり奮闘を続けてきた。(中略)

歴史が証明するように、社会主義だけが中国を救うことができ、「中国の特色ある社会主義」を堅持、発展することだけが中華民族の偉大な復興を実現できる。(中略)この青写真の実現は新たな長征である。(出典:習氏「中華民族復興に自信」 全人代での演説要旨,日本経済新聞,2018/3/20,https://www.nikkei.com/article/DGXMZO28377220Q8A320C1FF2000/

 170年から戦後70年を引けば100年の屈辱となります。そして新たな長征の「長征」とは1930年代、国民党軍に敗れた共産党軍が当時の本拠地を放棄して1万2500キロ行軍した時のことを指します。つまり今は「中国を救う」ために「長征」しているのであって、社会主義共産党の独裁)はそのために必要なものなのだと謳っているのです。当然、「長征」というからには国共内戦の結果からわかる通り、かつての列強に反転攻勢をかけて100年の屈辱を晴らす意味もあるのでしょう。

 復讐のために富国強兵を目指しつつ共産党独裁も正当化する、これまた一石二鳥の戦略であり覇権主義に突き進む理由です。

 ~恐怖する国

 ここまで私の考察を読んだ方の中には「被害妄想が過ぎるだろwww」と未だにおっしゃる人もいれば「復讐を考えるなんてヤな人たちだ」と考え始める方もいらっしゃるでしょう。世界に目を向ければ香港で市民を暴行する警察やウイグル自治区でのウイグル人の迫害に焦点が集まっています。これを中国の内政問題として無視するか、1930年代のドイツのような動乱の兆しと注視するかは皆さんの判断です。「中国の脅威などない!」と強弁する人はそれでもかまいません。自由です。

 では中国について脅威に感じ始めている方、あるいはもともと脅威に感じている方に質問です。前回の  (1),(2)そして今回紹介したで考察してきたわけですが、あまりにも彼らは攻撃的でかつ自己中心的すぎるように感じます。なぜでしょう?「そういう民族性だから」と決めつけることはできません。中国人民に対する誤解と偏見につながります。

 ならなぜか?それは中国が覇権主義を突き進む理由として私が挙げた4つ目の漢字、(恐れ)です。彼らは何かをとても恐れているのです。

 滅びを繰り返す国

 殷・周・秦・漢・随・唐・宋・元・明・清・中華民国中華人民共和国……中国の時代区分ですね。ですが日本の時代区分と明らかに違うところがあります。それは時代ごとに国も皇帝も異なっているということです。例えば秦は紀元前221年に中国を統一してわずか15年で劉邦に滅ぼされます。その後劉邦が即位して建国された漢は四百年余り続きましたが220年に三国志で有名な曹操の子曹丕によって滅ぼされています。

 特筆すべきは歴代中国は常に異民族の脅威にさらされていたことです。漢の時代に整備された万里の長城はピラミッドのような権力の象徴などではなく北方の騎馬民族侵入を防ぐ壁だったのです。

Great wall of china-mutianyu 4(明代・慕田峪長城 出典:Ahazan [Public domain]Wikipediaより,https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%87%E9%87%8C%E3%81%AE%E9%95%B7%E5%9F%8E)

  しかし歴史とは無情なもので13世紀にはモンゴル民族が中国全土を征服してを、17世紀には後に満州人と呼ばれる女真族が明を滅ぼしてを建国しています。そうです。先ほど「100年の屈辱」で表現された列強から侵略される当時の中国は「征服王朝」だったのです。つまり今の中国の主流である漢人にとってその屈辱は列強から受けたものだけではなかったのです。

 ここで毛沢東初代国家主席にまつわる有名な逸話を紹介します。1900年代初頭、学生だった毛氏は他の学生と示し合わせて辮髪をハサミで切り落としたという。辮髪とは清の時代の男性が結っていたお下げのようなもので女真族の支配の象徴でした。それを切り落とすことによって異民族支配からの脱却(そして拒否)を決意したのです。

 異民族に支配される恐怖と屈辱は私たちにとってはいまいちピンと来ないかもしれません。何しろ我々の祖先はかの強大な元の軍隊を返り討ちにするほど強かったのですから、外国に支配されたのはつい74年前の敗戦から7年の間だけです。それでも紀元節など日本の文化に少なくない影響を及ぼしていますから、百年以上支配されるとなったらひとたまりもありません。

 もし、異民族に対する恐怖と毛沢東氏の遺訓(異民族支配の拒否)が中国共産党の根幹を担っているとしたら、「中華民族の偉大なる復興」が単なる大国のロマンなどでないことが予想できます。つまり彼らは「殺られる前に殺れ」という殺伐した思想でもって覇権を手にし、脅威になる異民族を支配して抑えるか、異民族そのものを抹殺することで自らの永遠の安全を手に入れようとしているのです。

 そう考えれば今日チベット人ウイグル人に対して行われる目を覆わんばかりの迫害も説明がつきます(決して正当化できませんが)。当然、脅威になる異民族には私たち日本人も含まれるので、将来日本がかの国の意のままになったら私たちは「日本族」と呼ばれて迫害されるでしょう。

 欲・統・怒・恐の国

 最後に改めて南シナ海東シナ海に目を向けてみましょう。両海域を支配するということは資源や航路を独占できる意味がある()と考察しましたが、残りの三つの漢字も踏まえればさらに深い考察が可能です。

f:id:hatoyabu01:20191207161547j:plain(地図はGoogle Earthより)

 上図が中国が主張している支配域です。勘がいい人ならもう気付いていると思いますが、南シナ海東シナ海支配下に置けば台湾を南北から包囲することができるのです。台湾については皆さんもご存じの通り、中国共産党がかつての中華民国(国民党軍)を追いやった場所であり、現在も「一つの中国」をスローガンに支配権を主張しています()。ですが、今日まで台湾共産党の施政権に入ったことは一度もありません

 さらに台湾では李登輝総統以来民主主義が定着し、共産党の独裁体制を受け入れない土壌が出来上がっています。そして同じ価値観を求めて異民族国家である米国日本との非公式の関係を深めています。それは中国共産党にとって決して認められないことです()。しかし、迂闊に台湾を攻撃すれば現在の覇権国家である米国が介入してきます()。だから中国共産党南シナ海東シナ海を我が物にすることで米国の介入を抑止し、台湾の武力統一を確実なものにしようとしているのです。つまり一石二鳥ならぬ一石四鳥を狙っているのです。

 尖閣諸島はいわば東シナ海覇権のです。そこさえ手に入れれば台湾包囲網が完成します。どこかの誰かが「尖閣なんてあげちゃえばいい」などと軽率におっしゃっていましたが、それがどういった結果をもたらすのか是非問い質したいものですね。

 

 私が皆さんにお伝えしたいのは「歴史とは生きた人間が紡ぎ続ける悠久の糸であり、それは今も続いている」ということです。戦後平和な時代が来て戦前の動乱など異世界のような二度と来ない世界のように感じている人が多いでしょうがそれは思い込みに過ぎないのです。

「戦前の日本も戦後の日本も同じ私たち

という認識さえ持てば先の大戦反省と称して、あることないこと全部まとめて中国や韓国に「謝罪すべし」とは思わないでしょう。そして欲・統・怒・恐に蠢くかの国に対して真正面から向かい合い、中国の未来、アジアの未来、そして私たちと子供たちの未来のために何をするべきか考えることができるようになるはずです。

 

(12/7 本文中一部修正、12/11 一部加筆修正、12/12 出典URLを追加)