中国が覇権主義を突き進む理由(2)

(続きになります)

 前回を読んでいる人の中には「別に石油もガスも獲らせて買って仲良くすればいいじゃん?」とか「交易航路の支配者が米国から中国に代わるだけでしょ?」と考える方もいるでしょう。確かに人件費の高い日本では資源開発は消極的ですし、人件費の安い中国が採掘した資源を買ったほうが安くつくかもしれません。また、今日の世界経済はドルを中心としており、米国の方針次第で交易を寸断させることもできます。諸行無常の理に従えば支配者が変わるというのも自然なことです。

 しかし、それが自分の生活に影響ないと考えるならそれは軽率です。もし中国の支配圏に入ってしまったら、自由な発言も行動も投票もできなくなります。かの国は豊かになれども言論の自由も民主主義も未だに認められていないのです。憲法に基づいて政治を行う「憲政」という言葉さえ禁句にされたことがあるのです。

「でもそれは中国国内での話でしょ?」とおっしゃるかもしれませんが、中国をアジアの支配者と見なすなら必然的にアジア諸国はその体制を模倣せざるを得なくなります。その理由は前回私が表現した四つの漢字

     欲・統・怒・恐

の二番目の、正統性が関係しています。

 ~国の正統性

 時に皆さんは国が国であることに必要な三大要素を考えたことがありますか?国家論によって様々ですが、基本的には領土、国民、権力の三つが国の要素であるとされています。では権力についてこれを裏付けるのは何でしょうか?それは正統性です。

 正統性には武力による暴力的なものや選挙による民主的なもの、歴史的継続性によるものがあります。簡単に言うと国民が「納得する」または「納得せざるを終えない」形で個人や集団が力を得る方法です。国の正当性がなければ国民が納得できないため国の体をなさなくなります。

 例えば米国では四年に一度の大統領選挙によって国民に選ばれた者が大統領として正統性を得ています。欧州やアフリカ、南米の共産国でない共和国はほとんどがこの制度を採用しています。一方、イギリスなど王が存在する国家は王族の世襲による歴史的継続性が正統性になっています。

 因みに皆さんは普段意識したことはないでしょうが、日本の正統性は建国以来天皇による歴史的継続性で成り立っています。当然現在もそれは日本国憲法によって裏付けられており、国会の召集や内閣の任命、法律の施行も天皇がそれを行うことによってはじめて効力を持ちます。

 なら中国はどうでしょうか?かの国では選挙も行われず、世襲する王族も居ません。辛亥革命で1912年に清王朝が滅んで中華民国が、国共内戦で1949年に中華民国が台湾に追いやられて中華人民共和国が成立した経緯を考えれば、その正統性は武力による暴力的なものであるとわかります(他でもない共産党の指導者毛沢東が「政権は銃口から生まれる」とおっしゃってますからね)。

 とはいえ常に暴力のみで支配し続けるのは無理があります。小国程度ならともかく中国のように広い領土に多様な民族が存在する国家では強大な軍事力が必要となります。しかし強大な軍事力は国民の協力があってこそ成り立つので、暴力以外の方法で正統性を得る必要があります。

 正統性が変節する国

 これは私の考察ですが中華人民共和国という国は時代に応じて正統性を変化させています。

 まず最初に暴力的な正統性の補強として共産主義を用いました。これは冷戦時の東側諸国に多く見られた政治手法で、「革新的な経済政策」による豊かな国を理想として掲げ、政府の独裁的権力を正当化していました。

 しかし現実は経済力で資本主義陣営に水をあけられ、国内では生産性も品質も退廃し一部の人だけが富と権力を握る前近代的専制政治に成り下がってしまいました。その結果多くの東側諸国の共産党政権の正統性は揺らいでいき、1989年のベルリンの壁崩壊をきっかけに次々と崩壊・民主化していきました。当然、大躍進政策で失策を犯した中国共産党も例外ではありません。

 これを阻止するため時の指導者鄧小平は新たな正統性に鞍替えしました。それが「経済成長」です。共産党の名前はそのままに西側の膨大な投資と技術支援を呼び込み、形式的な市場経済を導入したのです(改革開放政策)。これが今日につながる経済成長をもたらしました。豊かになれば自由も民主主義も求めなくなる「パンとサーカス」を実践したのです。結果中国の民主化運動は徹底的に弾圧されました(六四天安門事件)。

 しかし、経済成長は永遠に続くものではありません。それに西側に門戸を空ける以上、どんなに情報統制しても自由や民主主義といった思想が入り込んできます。そこで1993年に就任した江沢民国家主席は学校教育を通して愛国心、つまりナショナリズムを強化することにしました。

(前略)2002年の中国共産党第16期全国代表大会(16大)は 、愛国主義を中心とする中華民族の民族精神の発揚と育成を国民教育全体に取 り入れるこ と、ならびに中華民族の復興が中国共産党の使命であることを確認した。(中略)注 目すべ きは、中国共産党が 「民族精神の継承者と創造者」として位置づけられ、また革命伝統教育では、社会主義共産主義を象徴す るプロレタリア闘士よりも、中華民族の独立解放と発展をもたらした民族 英雄のイメージが前面に押し出されていることである。(出典:武 小燕,中国における愛国主義教育の展開,此較教育学研究第36号,2008年,p25-38,https://www.jstage.jst.go.jp/article/jces1990/2008/36/2008_36_25/_pdf/-char/ja

 上文の引用元は名古屋経営短期大学准教授の武 小燕氏の大学院生の時の論文です。教育論を志すだけあって中国の学校で行われる「愛国教育」を端的に示しています。つまり中国の指導者たちは自分を”「民族精神の継承者と創造者」として位置づけ”ることで歴史的継続性による正統性を得ようとしたのです。2010年に大規模で行われた反日デモも単なる政権批判のガス抜きだけではないのです。

  自己目的化による覇権主義

 歴史的継続性による正統性を得る以上、中国の指導者たちは共和国設立以前の歴史を無視することができなくなります。その歴史として最も注目されるのが華夷秩序による中華圏の存在です。

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(歴代中国王朝に引き継がれてきた世界観)

 実はこうした華夷思想そのものは愛国教育ではあまり触れられていないそうです。しかし、過去に強大な国として君臨していた歴史があるならば、その「継承者」と称する中国の指導者たちもそれに準拠すべしとなるのは容易に想像できます。

 だからこそ習近平国家主席は「中華民族の偉大なる復興」を掲げたのです。そしてその政策は国内的にも対外的にも大国的ないし高圧的にならざるを得ません。当然軍拡を推し進めますし、グローバルな投資や支援も植民地政策のような強引なものになってしまいます(一帯一路政策)。そしてアメリカ一極体制を突き崩した暁は、自国を中心とした新たな一極を形成することでしょう。国の正統性を維持するための覇権主義が自己目的化した姿が今の中国なのです。

 筑波大学名誉教授の遠藤誉氏は中国と世界の将来について次のように危惧しています。

 いま、民主主義のメッカであったはずのアメリカでは、トランプが「アメリカ第一主義」あるいは「一国主義」を唱えてグローバル経済に背を向け、その隙間を狙って習近平がグローバル経済の覇者になろうとしている。

(中略)

 アメリカに追いつき追い越そうとしている中国は、今や世界を二極化しながら世界の頂点に立とうとしている。

 世界の二極化だけならまだしも、極端なことを言えば、中国が頂点に立ち制度だけが異なる「世界二制度時代」が来る危険性は否定できない。それだけは何としても避けなければならないのである。(出典:遠藤誉,香港は最後の砦――「世界二制度」への危機,中国問題グローバル研究所,2019年7月31日,https://grici.or.jp/425

 記事では「世界二制度時代」とありますが香港の実態を見る限り、中国一極の支配下に置かれた国が制度的に不変でいられる可能性は皆無です。かつての冊封国までいかずともそれに似たような関係を求められるでしょう。当然そんな状況下では自由も民主主義もあったものではありません。それどころかそれらの価値観は過去のものとなり、中国政治を参考にした体制へと変容していくことでしょう。

 あなたの今の価値観を向こう数十年、子供の世代も続いて欲しいと思うなら中国による支配を拒絶しなければなりません。

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 覇権主義を突き進む中国と追従する日本。その未来はこちら

 

(12/9 本文中一部修正、12/12 出典URLを追加、12/23 本文中一部加筆修正)(2020/09/12 画像差し替え)